女性特有の疾患である 乳癌 は、現在12人に1人が発症するといわれていますが、最近では3つの受容体のうち癌細胞が持つ受容体を知ることによりホルモン療法や分子標的療法などの効果の高い薬物療法がおこなわれるようになり、完治することも可能となりました。
しかし、3つのうちどの受容体も持たない トリプルネガティブ は、若い女性に多くみられ、効果を示す薬剤が限られるため悪性度が高いといわれています。
若い女性を襲う、乳癌のトリプルネガティブ(前編)
治療のために必要な病理検査
乳癌の治療法は、手術療法を主体として癌の特徴や進行度によって放射線療法、薬物療法を組み合わせて癌細胞を死滅させることを目的におこなわれます。その中でも、特に重要なのは薬物療法です。
薬物療法は腫瘍の進行度や状態によって術前、術後におこなわれる場合があります。術前では、腫瘍周囲に転移し手術では取り除くとが難しい小さな腫瘍を消失させたり、腫瘍を小さく限局することにより、手術療法の効果を高めることができます。
術後は、手術では取り切れなかった癌細胞や、血液やリンパの流れにのり、全身を巡って潜んでいる癌細胞が、他の部位で増殖し転移する遠隔転移を防ぐ効果があります。
この薬物療法により、体の中に潜む癌細胞を限りなくゼロに近い状態まで死滅させるためには、腫瘍の病理検査をおこない癌細胞がどの薬物に反応するかを調べる必要があります。
3つの受容体を持たない乳癌
腫瘍の病理検査では、癌細胞が増殖するためにホルモンに依存するものなのか、もしくは増殖調整に関わる遺伝子タンパクを持っているのか、癌細胞の特徴を調べます。
細胞には、それぞれ鍵穴のようなホルモン受容体があり、その鍵穴に合う鍵を持つホルモンがその細胞に作用することにより、私たちの体は機能しています。
乳癌の場合は、女性ホルモンであるエストロゲンの受容体を持ち、エストロゲンの作用によって増殖する癌細胞が多く、乳癌全体のおよそ7割といわれています。
また、もう1つの女性ホルモンである、プロゲステロンの受容体を持つ癌細胞もあり、エストロゲン受容体とプロゲステロン受容体の両方、またはどちら一方を持っている癌細胞はホルモン依存性の高い乳癌ということになり、ホルモン療法が積極的におこなわれます。
主にエストロゲンの作用を阻害したり、エストロゲンの量を減少させることにより、癌細胞が増殖するのを妨ぎ、死滅させ腫瘍を萎縮させることができます。
しかし、ホルモン依存性を持たない癌細胞もおり、その場合はホルモン療法の効果はほとんど期待できません。そのため、HER2という遺伝子タンパクの存在が重要になります。
HER2は正常な細胞にも存在していますが、遺伝子変異や増幅がおこると、細胞の増殖を抑制する機能を失い悪性化させてしまうと考えられています。
このHER2が過剰になっていたり増幅がみられる場合は、遺伝子を組み換えてつくられたHER2の受容体に作用するトラスツズマブを使用した、分子標的療法をおこないます。トラスツズマブはHER2の受容体に標的を絞って攻撃することにより、癌細胞の増殖を妨げる効果があります。
このような3つの受容体のうち、癌細胞がどれか1つでも持っていると乳癌の治療効果を高めることができますが、どの受容体も持たない乳癌をトリプルネガティブといいます。
トリプルネガティブでは、ホルモン療法や分子標的療法の効果がなく、癌細胞の増殖を抑えることが非常に難しいのです。
まとめ
若い女性を襲う、乳癌のトリプルネガティブ(前編)
治療のために必要な病理検査
3つの受容体を持たない乳癌