「乳癌の手術後の治療は、どのようなものがあるのでしょうか(前編)」では、乳癌の病理診断や手術後の抗がん剤治療についてご紹介しました。後編では、 乳癌 の 手術後 の放射線治療や分子標的薬、ホルモン治療についてご紹介します。
乳癌の手術後の治療は、どのようなものがあるのでしょうか(後編)
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乳房温存手術は原則として「放射線治療」とセット、一方、切除手術で行う場合も
乳房の温存手術をした場合、または切除手術をしてリンパ節転移があった場合には、放射線治療を行います。放射線治療は、癌細胞の遺伝子を破壊して死滅させるもので、温存した乳房、胸壁、リンパ節での局所再発を防ぐ目的で行います。
温存手術の場合は原則として放射線治療を行います。切除手術を行った場合は、これまではリンパ節転移が4個以上のケースに放射線治療を行うことが推奨されており、1~3個の場合は効果を裏付けるデータが不十分でした。
しかし、最近の報告で、切除手術を行った患者でリンパ節転移が1~3個の場合でも、手術後に放射線治療を行うことで、再発及び乳癌による死亡のリスクが減少するというデータが出たことから、リンパ節転移陽性で4個に満たない場合にも、積極的に放射線治療を行うケースが増えています。
放射線治療を受けると、照射された部分の皮膚が固くなるため、直後の乳房再建は困難となる場合があります。時間を掛けて保湿クリームを塗るなどして徐々に皮膚が柔らかくなる可能性もありますが、乳房の再建手術を希望する場合は、予め主治医にその意思を伝えておきましょう。
HER2陽性タイプの乳癌の予後を劇的に改善した「分子標的薬」の登場
病理診断で「HER2たんぱく」が陽性だと判断された場合には、分子標的薬を投与します。HER2たんぱくとは、癌細胞の表面で増殖の指令を受ける受容体で、これが過剰に発現しているHER2陽性タイプは、かつては効果的な治療法が無かったのですが、トラスツズマブという分子標的薬が登場してから、劇的に予後が改善しました。
トラスツズマブは、HER2たんぱくと結び付くことで増殖の指令をブロックし、更にトラスツズマブが目印となって、免疫細胞が癌細胞を狙い撃ちにします。抗がん剤とは異なり脱毛などの副作用はありませんが、心臓に悪影響を与える可能性があるため、治療中は定期的な心機能検査が必要です。
女性ホルモンが癌の餌になる場合に行われる「ホルモン治療」
病理診断の結果、女性ホルモンである「エストロゲン」「プロゲステロン」の受容体がある場合には、ホルモン治療を行います。ホルモン受容体をもっているということは、癌細胞が女性ホルモンを餌にして成長していることを意味します。
ホルモン治療では、分泌されたホルモンが癌細胞と結び付くのをブロックする方法と、ホルモン自体の分泌を一時的にストップさせる方法があります。前者の場合、代表的には「タモキシフェン」という薬の内服、後者では「酢酸リュープロレリン」の皮下注射などがあります。いずれも、閉経前に使用すると一時的に生理が止まります。
ホルモン受容体がある場合、タモキシフェンを5年間服用することで再発のリスクを半分ほどに低下させるとのデータが出ていますが、最近では5年よりも10年継続した方が、より効果があるという結果が出ました。
ホルモン治療は5~10年と長期に及ぶことから、妊娠・出産を希望している場合は、治療に入る前に、その意思を必ず主治医に伝えておきましょう。パートナーとも、よく話し合うことが大切です。
乳癌は、癌の中でも比較的予後が良く、適切な治療を行うことで再発率を下げることが可能です。自分の意思をしっかりと主治医に伝え、計画的に治療を行うことが大切です。
まとめ
乳癌の手術後の治療は、どのようなものがあるのでしょうか(後編)
乳房温存手術は原則として「放射線治療」とセット、一方、切除手術で行う場合も
HER2陽性タイプの乳癌の予後を劇的に改善した「分子標的薬」の登場
女性ホルモンが癌の餌になる場合に行われる「ホルモン治療」