病気に罹患する原因として遺伝子が関係する場合がある事がわかっています。 乳癌 に関しても関連遺伝子が解明されており、特定の検査を受けることで 遺伝 性か否かを確認できるようになりました。ここでは遺伝性乳癌・卵巣癌症候群とはどのようなものかお話したいと思います。
遺伝性乳癌・卵巣癌症候群について
遺伝性乳癌・卵巣癌症候群とは
本来乳癌は遺伝性の病気ではありませんが、罹患者の一部は遺伝性乳癌である事が分かってきました。
BRCA1とBRCA2と呼ばれる癌抑制遺伝子は男女問わず誰もが持っている遺伝子ですが、この二つの遺伝子(もしくはどちらか一方)に病的変異が起こると乳癌や卵巣癌、男性では男性乳癌や前立腺癌にかかりやすくなります。
この変異による疾患をHereditary Breast and/or Ovarian Cancer Syndromeの頭文字をとりHBOCと呼びます。日本語名では「遺伝性乳癌・卵巣癌症候群」と呼びます。
この遺伝性乳癌・卵巣癌症候群の乳癌や卵巣癌の発症リスクは一般的な発症リスクの10~19倍と考えられています。また、2回目の原発癌の発症リスクも40%と高いことがわかっています。
遺伝性乳癌・卵巣癌症候群の特徴
BRCA1・2に病的変異があると50%の確率で子供に遺伝子が伝わります。そのため、乳癌を発症した際に家族歴があると遺伝性乳癌・卵巣癌症候群が疑われ、必要があれば遺伝子検査を薦められる事があります。
家族歴以外の遺伝性乳癌・卵巣癌症候群の特徴は以下のようなものがあります。
- 若年(40歳以下)で乳癌を発症
- 両側、あるいは片側の乳房に複数の癌を発症
- 時間をあけて複数回の乳癌を発症
- 男性で乳癌を発症
- 他の臓器(前立腺、卵巣など)に癌を発症
- トリプルネガティブである
もちろんすべての遺伝性乳癌・卵巣癌症候群がこの特徴に当てはまるわけではありませんが、このような特徴のある乳癌の場合は遺伝性乳癌・卵巣癌症候群が強く疑われます。
遺伝子検査のメリットとデメリット
家族歴やその他の特徴から、遺伝性乳癌・卵巣癌症候群を強く疑われる場合には医師から遺伝子検査を受けるように薦められる事がありますが、この検査は任意なので必ず受けなければならないものではなく患者の自由意思に基づいて行われます。
遺伝子検査をするメリットは、万一遺伝性乳癌・卵巣癌症候群と診断された場合、一般の乳癌とは異なる管理が推奨され、しかるべき対策をとれる点にあります。
一方デメリットは、遺伝子変異を持つことが判明したことによる心理的ショックや各種保険への加入拒否等の問題、高額な遺伝子検査費用(自費による検査で25万円程度)、血縁者への告知の問題などが挙げられます。
通常は遺伝子検査を受ける前にカウンセリングが義務づけられており、十分な説明がなされるので、上記の点を熟慮の上で検査を受けるか受けないかを判断し、決断する必要があります。
遺伝性である事が判明したら
遺伝性乳癌・卵巣癌症候群と診断された場合はどのような対策が必要になるのでしょうか。まだ乳癌を発症する前に遺伝性乳癌・卵巣癌症候群と判明した場合は、早い年齢から定期検査を開始します。
乳癌の管理として18歳から自己検診を、25歳から6ヶ月に一度の医師による視触診、25歳から年に一度のマンモグラフィー及びMRI検査を受ける事が推奨されます。卵巣癌の管理として35歳から経膣エコー検査、腫瘍マーカーの測定などを半年に一度の頻度で受ける事が推奨されます。
すでに乳癌を発症している場合は、将来の再発リスクを考えて乳房温存術が可能な症例でも全摘術を行う事が推奨されます。
予防的切除について
少し前に米女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが遺伝性乳癌・卵巣癌症候群と診断されたため、両乳房と卵巣・卵管を予防的切除した事が話題になりました。
このような予防的切除は病気の予防という点では非常に有効ではありますが、現在の日本での遺伝性乳癌・卵巣癌症候群への取り組みでは、予防的切除はまだ保険診療では認められていません。
どうしても予防的切除を希望する場合は、医師らによる倫理委員会の承認を得た上で自費で手術を受ける必要があり、ハードルが高いのが現状です。
万が一遺伝性乳癌・卵巣癌症候群と診断された場合には、担当医とよく相談し定期的な経過観察をしながら、個別に適切な対処をしていくことが今できる最も有効な対策ではないかと思います。
まとめ
遺伝性乳癌・卵巣癌症候群について
遺伝性乳癌・卵巣癌症候群とは
遺伝性乳癌・卵巣癌症候群の特徴
遺伝子検査のメリットとデメリット
遺伝性である事が判明したら
予防的切除について