乳癌 の標準治療には「化学療法」「手術」「放射線療法」の3つがあります。癌のステージ、サブタイプなどを考慮しながら、個人個人に適した治療法が選択され組み合わされて治療が始まります。ここではその3つの標準治療の内の 放射線治療 についてお話したいと思います。
乳癌における放射線治療
放射線治療とは
癌細胞に放射線を照射すると、細胞が分裂・増殖する際の必要な遺伝子に作用し、新しい細胞が作られるのを阻害して癌細胞を減らしたり消滅させたりします。このメカニズムを利用して行われるのが放射線治療です。
乳癌の治療に放射線治療が単独で行われることはなく、手術と組み合わせて行われるのが一般的です。
放射線治療に使用されるのはX線、ガンマ線、電子線、陽子線、重粒子線などがありますが、乳癌の治療に使用されるのは主にX線です。照射方法は「外部照射」と「内部照射」がありますが、乳癌の場合は外部照射による治療が行われます。
放射線治療は1回の照射時間は5分ほどで、1週間に5日間、それを数週間にわたって受けるのが一般的です。
どんな場合に放射線治療が行われるか
乳房温存手術後の照射
乳房の温存手術が行われた後で、乳房内に残っているかもしれない微小な癌細胞を殺傷し、局所再発を抑制する目的で照射します。術後の病理結果で断面が陽性だった場合は、標準的な照射回数にさらに追加照射します。
全摘手術後の照射
乳房を全摘した場合は放射線治療は通常行われませんが、術後の病理検査でリンパ節に転移が4つ以上あった場合や腫瘍の大きさが5センチを超えていた場合は、生存率を上げるために照射が必要になります。
転移巣への照射
乳癌は多臓器へ転移しやすい癌です。特に肺、骨、脳、肝臓への転移が多く見られます。その中でも骨転移は痛みを伴うことが多いので、疼痛緩和に放射線治療が行われます。脳転移にはガンマ線を使用したガンマナイフと呼ばれる装置で照射します。
放射線治療による効果
乳房温存手術後の放射線治療により、局所再発率を半減させる事ができると言われています。また、局所再発を抑制する事で遠隔転移のリスクも下がると考えられています。
転移巣への照射では実際の痛みを取り除き症状を改善する効果があります。骨転移では骨が融解し周りの神経を巻き込んで発生する痛みなど、強い痛みを感じるケースが非常に多いのですが、痛みの緩和に放射線治療は有効です。
脳転移による頭痛や引き起こされる神経症状などにも効果があります。これらの治療では手術によってメスを入れることなく外部照射で治療ができるので、患者にとっては負担が少なくメリットが大きいと言えます。
放射線治療の副作用と注意点
放射線を照射することによる副作用にも気をつけなければなりません。乳癌の放射線治療でよくある副作用は皮膚の炎症です。照射範囲の皮膚が日焼けのように赤くなり、やがて色素沈着を起こします。汗腺がダメージを受けるので汗が出にくくなり皮膚が硬くカサカサしてきます。
水ぶくれになる場合もあります。このような症状が出たら、医師に相談して軟膏を処方してもらうといいでしょう。希ですが、放射線肺炎と言って、時間が経ってから照射が原因の肺炎を起こすケースもあります。
放射線治療による二次的な発ガンについては殆ど心配はいりません。放射線は保険診療の対象ですが、一度に照射できるのは2箇所までです。また、一度照射した箇所には再度照射することができません。
乳房へ照射した場合、将来再建手術を受ける事があったとしても、皮膚を伸ばす必要のあるインプラント再建ができません。放射線治療を受ける際にはこのような事にも留意してきちんと納得した上で受ける事が大切です。
寡分割照射について
放射線は手術などと比べると体への負担は少ないのですが、それでも25回の照射だと平日は毎日、5週間の通院となります。一回の治療時間は短いとは言えこの通院もかなり大変です。そこで「寡分割照射法」という放射線治療が注目されています。
これは従来の一般的な放射線治療よりも1回あたりの照射量を増やし、回数を減らすことにより通院の負担、金銭的な負担を軽減するメリットがあります。効果については従来の方法と同等で、副作用は従来のものよりも軽い場合が多いという報告もあり、選択肢の一つとして考えてみる価値はありそうです。
この寡分割照射を受けるには、以下の条件を満たしている事が推奨されています。
- 50歳以上
- 腫瘍径が2センチ以下
- 化学療法を受けていない
- リンパ転移がない
- 線量均一性が保てる
ただし、この条件に全て当てはまらなければ絶対ダメ、というわけではないそうですので、希望があれば医師と相談されてみると良いかもしれません。
まとめ
乳癌における放射線治療
放射線治療とは
どんな場合に放射線治療が行われるか
放射線治療による効果
放射線治療の副作用と注意点
寡分割照射について