バセドウ病の手術の目的は、原因となる甲状腺ホルモン産生組織を切除してしまい、過剰にホルモンが出ないようにすることです。薬物療法も主流ですが、どんなときに手術が選択されるのでしょうか?
今回は、「 バセドウ病 の 手術 の適応や手術の方法」についてお話しします。
バセドウ病の手術とは?
どんな時に手術が必要?
バセドウ病の手術は、過剰に甲状腺ホルモンを分泌している甲状腺の一部または全部を外科的に切除する方法です。甲状腺がある頚部(首)は、重要な血管・神経、気管が集中している部分であり、基本的に手術は全身麻酔で行われます。
手術の適応としては、
- 薬剤治療でコントロールが困難な場合
- 薬剤によるアレルギーや重篤な副作用(肝機能障害・無顆粒球症など)のために内服継続が困難な場合
- バセドウ病に甲状腺悪性腫瘍(甲状腺癌)が合併している場合
が挙げられます。
その他、血液検査でTRAb(TSHレセプター抗体)が高いため将来の妊娠・出産のために手術を希望する人や、眼球突出が高度な人にも手術を行う場合があります。
手術をすれば薬は必要ない?
バセドウ病は生涯薬剤治療が必要となる場合も少なくないため、手術療法の理想は、「甲状腺機能を正常化して薬物を断つ」ことです。しかし、実際はそう簡単にはいきません。
原因である甲状腺を全部とってしまえば、もちろん病気は良くなり、再発もしませんが、甲状腺は人体にとって非常に重要なホルモンです。全部摘出(全摘)してしまうと甲状腺ホルモンの薬を一生飲む必要があり、「薬物を断つ」という目標は達成できません。
そのため、病変部分のみ切除する亜全摘(あぜんてき)という方法がとられていました。一見、「病変も無くなり、甲状腺も残る」完璧な治療のように思えますが、実際は適正な量の甲状腺を残すのが非常に難しいのです。
残った甲状腺の量が多いと、甲状腺機能が亢進したままで結局改善しないことがあります。逆に、少なすぎると機能低下症となり、一生甲状腺ホルモンの内服が必要となります。
また、残った甲状腺から将来再発する可能性があるのです。そのため、手術後は定期的に残った甲状腺の状態をフォローし続ける必要があります。
甲状腺は重要な組織が集まる頚部にあるため、何度も手術をするのは非常に危険です。再発時の再手術を避けるため、医療施設によっては、甲状腺全摘を基本としているところがあります。
まれにですが、全摘をしても目に見えないほどの甲状腺組織が残っていて、そこから再発することがあります。
手術の合併症は?
甲状腺の手術には、特有の合併症がいくつかあります。
まず、発声に関わる声帯を動かす反回神経が甲状腺の裏を走っており、この細い神経に傷がつくと、一時的もしくは一生声枯れ(嗄声)が残る可能性があります。症状がひどい場合は、声帯の動きを改善する手術を行うことがあります。
次に、副甲状腺という小指の先ほどの大きさの組織が甲状腺についており、副甲状腺を含めて摘出してしまった場合、カルシウムが低下するため内服治療が必要となります。しかし、副甲状腺は4つあるため全ての副甲状腺を切除してしまうことはまれです。
最後に、甲状腺は気管支(空気の通り道)に張り付いているため、術後に出血した場合、血の塊が気管を圧迫して気道閉塞に陥る危険があります。そのため、甲状腺全摘出術では、あらかじめ気管切開(空気の通り道をつくる手術)を行うことが多いです。
その他には、他の手術同様、術後感染、疼痛などが挙げられます。
妊娠とバセドウ病の手術
妊娠・出産を希望する女性には、希望に応じて手術を行うことがあります。
甲状腺機能亢進が長い間続くと、生理が不順になり、時には停止してしまうことがあるためです。また、妊娠中にホルモンが過剰になると、流産や早産のリスクが高くなります。妊娠・出産を希望する女性は、なるべく早めに甲状腺ホルモンの値を正常にしておく必要があります。
また、薬物療法では、妊娠中も抗甲状腺薬を飲み続ける必要があります。まれではあるものの妊娠初期に内服している場合に、子供の奇形が報告されています。さらに、産後にバセドウ病が悪化することも多く、授乳中に薬物量を増やす必要が生じることもあります。
これらのことから、薬物療法でコントロールが良好な人でも妊娠・出産時のリスクを考えて手術を希望する人がいます。
ちなみに、甲状腺全摘出をした場合、妊娠・出産時も甲状腺ホルモンを内服し続ける必要がありますが、甲状腺ホルモンはもともと人間の体にあるホルモンですので、内服しても問題はありません。
まとめ
バセドウ病の手術とは?
どんな時に手術が必要?
手術をすれば薬は必要ない?
手術の合併症は?
妊娠とバセドウ病の手術